不動産売却で起こりやすいトラブルと対処マニュアル

不動産の売却は、人生のなかでも数回あるかどうかの大きな取引です。売却価格が何千万円、あるいはそれ以上に上るケースも珍しくないことから、一度トラブルが起きると、金銭面や時間面で多大な負担を強いられる可能性があります。
特に、不動産には境界問題や隠れた瑕疵(かし)、引渡し時期など、事前にしっかり確認しておかないとあとで紛争に発展しやすいポイントが数多く存在します。
本記事では、不動産売却の現場で起こりがちなトラブル例と、万一トラブルが起きたときの対処マニュアルをわかりやすくまとめました。まずは、よくあるトラブルとして、境界不明確や隠れた瑕疵、そして引渡し時期のズレに着目し、それぞれの原因と典型的な展開を解説します。
次に、トラブルを防いだり、起きてしまった場合にスムーズに対応したりするためのヒントとして、事前調査や契約条項の明記、さらには専門家への相談の重要性を詳しく紹介します。
不動産売却は単なる資産処分ではなく、買主との信頼関係を築きながら契約を成立させる行為でもあります。小さなミスや確認不足が、結果的に大きな損害を生むリスクを孕んでいるため、「自分はトラブルとは無縁だろう」と油断するのではなく、しっかり情報を収集し、対策を講じることが不可欠です。
これから不動産を売却しようとしている方は、本記事を参考に、安心・安全な取引を実現してください。
目次
よくあるトラブル例

不動産売却におけるトラブルは、決して特殊な状況だけで起こるわけではありません。実際に多くの売り主や買主が遭遇するありがちな問題を事前に把握しておけば、取引を円滑に進めるための準備やリスク管理に役立ちます。
ここでは、特に頻出するトラブルとして、「境界不明確、隠れた瑕疵」および「引渡し時期のズレ」について詳しく見ていきましょう。
ちょっとした認識不足や確認不足がきっかけとなり、大きな紛争や金銭的損失に発展するケースもあるため、しっかり対策を立てることが重要です。
境界不明確、隠れた瑕疵

1. 境界不明確
戸建て住宅や土地を売却するときに多いトラブルのひとつが、境界線があいまいなまま取引を進めてしまうケースです。具体的には、次のような状況が頻繁に見られます。
•境界杭の消失
かつては存在していたはずの境界杭が、経年劣化や外的要因で破損・紛失してしまい、正確な敷地境界を示せなくなることがあります。
売却契約時に明確な境界を提示できないと、買主は将来の境界紛争を懸念し、売買価格の交渉や契約締結の保留を求めるかもしれません。
下手をすれば、契約後に買主が隣地との境界を再確定する手間や費用を負担し、「これを知らされていなかった」という不満を抱くことで、紛争へ発展するリスクが高まります。
•越境建物・越境塀
古い建物やブロック塀が少しずつ越境している事例も珍しくありません。
たとえば、長年使ってきた塀の一部が隣地に入り込んでいたり、屋根の軒先が越境していたりするケースです。売却後に買主が詳細を調査し、「越境部分を撤去してほしい」と隣地所有者に言われたとき、売主が知らなかったとしても責任を追及される可能性があります。
場合によっては、撤去費用や使用料を求められることもあり、売却完了後に思わぬ出費を強いられるかもしれません。
•私道や共有地の権利関係があいまい

物件が面している道路が実は私道だったり、共有持分が絡んでいたりする場合には、接道義務を満たすかどうかが融資審査に影響することがあります。
また、私道の管理費や維持管理ルールが明確でないと、買主がトラブルを嫌って契約を回避したり、買い付け金額を下げたりする原因になります。
これらの境界問題は、契約前に測量や法務局での公図確認、隣地所有者との事前協議などを実施しておけば、トラブルの芽を早期に摘むことができます。
売主が境界に関して十分な情報を把握していないと、買主へ正確な説明ができず、契約成立後に問題が表面化しやすくなる点に留意しましょう。
2. 隠れた瑕疵(かくれたかし)
もうひとつ、多くの紛争を生む原因として挙げられるのが、隠れた瑕疵の存在です。瑕疵とは、物件に潜在する欠陥や不具合のことで、売主が認識していない、または意図的に告知していなかったケースでも、契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)が問われる可能性があります。
•雨漏りやシロアリ被害

一見すると問題なく見える中古物件でも、天井裏や床下で雨漏りが進行していたり、シロアリによる食害が起きていたりするケースがあります。
売主自身が気づいていない場合も多いですが、買主が入居後に不具合を発見すると、修繕費の請求や契約解除など深刻な事態に発展するかもしれません。
•地盤の問題
地盤沈下や地中埋設物(ゴミ・廃材など)が見つかった場合、買主が「聞いていなかった」として修繕費や撤去費の負担を求める可能性があります。
とりわけ、地盤の弱さが構造的なリスクに直結する場合は、物件価値や安全性にも大きく影響します。
•リフォームの質や欠陥

売却前にリフォームして外観を整えたり、設備を新調したりする例は多いですが、施工の質が低いと後から不具合が明るみに出ることも。
表面上だけきれいに仕上げられた物件は注意が必要で、柱や梁といった構造部分に問題が潜んでいるかもしれません。
買主はそうした欠陥を後になって発見すると、「売主が隠していたのではないか」と疑い、補修費用の負担を求めるケースが少なくありません。
瑕疵の所在は売主が意図的に隠している場合だけでなく、「本当に知らなかった」場合でもトラブルに発展しやすいのが厄介です。
事前に専門家(建築士やホームインスペクター)によるチェックを受け、「問題があるなら修繕または事前告知」「問題がなければその旨を証明」といった対応が、買主に安心感を与え、紛争を回避するために有効です。
引渡し時期のズレ

マンション売却や戸建て売却に関係なく、物件の引渡し時期がスケジュールどおりにいかないというトラブルも非常に多いです。
売買契約時に「○月○日までに引き渡す」と取り決めていても、さまざまな事情で引渡し日が延期せざるを得なくなるケースは珍しくありません。
•買主側の事情
代表的なのは、住宅ローン審査が想定より長引くパターンです。とくに昨今はローン審査の基準が厳しくなったり、書類不備が起きたりすると、決済日が後ろ倒しになりがちです。
また、買主が他の不動産を売却した資金で新居を購入する場合、その売却が思うように進まないと資金が確保できず、決済を予定日に行えないという事態も起こり得ます。
•売主側の事情
売主本人が住み替え先を決められない、引越し業者の手配が遅れた、次の物件のローン審査で手間取っているなど、多様な原因で物件を明け渡すまでの準備が間に合わないことがあります。
とくに住み替えに際して「売却先行」を選択したはずが、新居の購入スケジュールが読めずにずれ込むなど、複雑な状況に陥ることも少なくありません。
•トラブル発展の可能性

引渡しが遅れると、買主が予定していた引越しや賃貸退去のスケジュールも狂います。
結果として、余計な出費(ホテル代・引越し再手配など)を強いられた買主が損害賠償を求めることや、契約を解消しようとする動きが出ることすらあり得ます。
このように、引渡し時期のズレはどちらの当事者にも損失や不都合をもたらしやすいポイントです。
回避するには、売主・買主のスケジュールを丁寧に調整し、契約書にも余裕をもった日程や万一の場合の対応策を盛り込むなどの工夫が求められます。
全体的な影響と注意点

上記のトラブルは単体で発生することもあれば、複合的に重なり合うこともあります。
たとえば、境界問題が明らかになっているのに売主が告知を怠り、引渡し直前になって買主が気づいて「修繕費や測量費を差し引いてほしい」と要求する、あるいは隠れた瑕疵が見つかって対応に時間がかかり、引渡し時期が大幅に遅れるなど、トラブルの連鎖が起こりやすいのです。
不動産売却は一度に多くの要素が絡む複雑な取引であり、売主自身が把握しているつもりでも、専門家の視点から見ると大きな問題が潜んでいる場合があります。
たとえば、売主は「越境? そんなの大したことない」と思っていても、買主が金融機関の審査で難色を示されたり、隣地所有者と協議をしないといけなかったりと、大きな負担を強いることになるかもしれません。
「問題ない」と断言できる根拠がない段階で強気に交渉を進めると、あとから露呈した事実によって買主との関係が悪化し、トラブル解消のための費用や時間を余計に費やす可能性が高いです。

こうしたリスクを少しでも減らすには、次章で解説する事前調査や契約条項の明記、そして専門家への相談が欠かせません。早めの対処こそが、トラブルを防ぐ最良の方法だといえます。
これらの「よくあるトラブル例」を知ることは、売り主としてのリスク意識を高め、買主に安心感を与える取引を実現する第一歩です。
次の章では、こうしたトラブルの回避や対処に向けた具体的な手法について、「事前調査・契約条項明記」と「専門家相談」の2つのポイントを中心に詳しく説明していきます。
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対処法のヒント

前章で紹介したように、不動産売却においては境界不明確や隠れた瑕疵、そして引渡し時期のズレといったトラブルが頻発します。
いずれも「ちょっとした認識不足」「確認作業の甘さ」が原因となることが多いのですが、実はほんの少しの事前対応で未然に防げるケースが大半です。
本セクションでは、事前調査・契約条項明記と専門家相談の2つの視点から、具体的な対策や行動指針を解説します。
これらを実践すれば、取引自体がスムーズになるだけでなく、トラブルが起きてしまった場合にも早期解決を図りやすくなるでしょう。
事前調査・契約条項明記

不動産売却時に起きるトラブルの大半は、売主が物件の実態を正しく把握していない、あるいは契約書に曖昧な表現が残っていたことが原因です。
そこで、事前調査と契約条項をしっかり明記する作業が不可欠となります。以下、具体的なポイントをいくつかピックアップしてみましょう。
1. 境界確認・測量の実施

•隣地との境界を再確認
売却の前に、隣地所有者との間で境界がはっきり合意されているかを確認しましょう。
過去に設置した境界杭が消失している場合は、法務局で公図や登記簿を取り寄せたり、測量士に依頼して敷地面積や境界線を再確定させたりするのが安心です。
•測量士の活用
測量士を雇い、正確な境界を示す資料を作成すれば、隣地との紛争や買主の不安を大幅に軽減できます。
また、測量結果によって「実は面積が思ったより小さかった」「越境している部分があった」などが判明することもあり、早い段階で対処できれば、のちのち大きなトラブルに発展しにくくなります。
•隣地所有者との合意書
測量の結果に基づき、隣地との境界に関して「ここが正しい境界だ」と双方が合意を結ぶ書面を作ると、買主も安心して契約に臨めるでしょう。
2. 物件調査レポートの用意

•建物・設備の事前点検
中古物件の場合、隠れた瑕疵がないか事前にチェックしておくことが肝心です。
とくに雨漏りやシロアリ被害、給排水管の劣化などは、売主自身も気づいていない場合が少なくありません。
ホームインスペクター(建物診断士)や建築士に依頼して、建物の状態をレポート化してもらうとよいでしょう。
•地盤調査やリフォーム履歴
地盤沈下や地中埋設物などがあると、買主が後で「聞いていなかった」とクレームをつける可能性があります。
あらかじめ地盤調査結果を示しておけば、問題ないことを証明できるか、あるいは何らかのリスクがあるなら事前に告知して協議できます。
また、過去に行ったリフォームや増改築の履歴を整備しておくと、買主が「きちんとメンテナンスされていた物件」という安心感を持って検討できます。
3. 引渡しスケジュールの確保

•余裕を持った日程設定
契約書に「引渡しを○月○日とする」と定めても、引っ越しやローン手続きなどが絡むと予定どおりに進まないことが多々あります。
多少のズレを見込んで、「○日以内の猶予を認める」などの条項を契約に盛り込むと、後から買主と売主が揉めるリスクが減ります。
•同時引渡しの難しさ
一般的に、不動産決済日に買主は残代金を支払い、同日に物件を引き渡す「同時引渡し」が基本です。
しかし、売主が住み替え先の準備を終えていない、買主がローン審査で手間取っているなどで、日程が合わない場合が多いものです。そういった事態が起こり得ることを想定し、余裕のあるスケジュールを組み、契約書にも記載しておきましょう。
4. 契約書への明確な記載

•契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)の範囲
物件の欠陥に気づかなかったからといって、売主が免責されるとは限りません。
どの程度まで売主が責任を負うのか、期間や範囲を契約書で明確に定義しておくと、後々のトラブル防止に有効です。
•物件の付帯設備表・状況確認書
エアコンや給湯器、照明器具など付帯設備に関する一覧表を詳細に作成し、「これは残す」「これは撤去」といった情報を買主と共有します。
また、物件状況確認書にシロアリ被害や雨漏りなどを売主が認識しているかどうかを記載することで、「聞いていない」論争を回避しやすくなります。
これらの項目を、口頭説明だけで済ますのではなく、文書として明記しておくことが大切です。「後から言った、言わない」のトラブルを防ぐためにも、契約時に双方が納得し合意署名する仕組みを作りましょう。
専門家相談

不動産売却のトラブルは、法的知識や技術的知識が求められるため、一人で抱え込むとリスクが大きいのが特徴です。
そこで、各分野の専門家に相談することで、的確なサポートと早期解決が期待できます。以下では、代表的な専門家とその役割を説明します。
1. 不動産会社(宅地建物取引業者)
•売却活動全般をサポートし、価格設定や契約書作成などの手続きを手助けしてくれる存在です。
•境界問題がある場合にも、過去の事例や法的知識を踏まえて隣地所有者との交渉を支援してくれるケースが多いです。特に大手や実績豊富な不動産会社は、独自のノウハウをもっています。
•引渡しスケジュールの調整や買主との仲介においても大きく関わるため、信頼できる不動産会社を選ぶことが、トラブル回避の第一歩といえるでしょう。
2. 弁護士

•法的な紛争や訴訟が視野に入る場合、弁護士に相談するのが最も確実です。契約書作成の段階から依頼すれば、争点となりやすい箇所を予防的に補強してもらえます。
•物件の引渡し後に紛争が発生した場合も、弁護士が間に入ることで交渉や和解、あるいは訴訟対応をスムーズに進められるので、早期解決に大きく貢献します。
3. 司法書士
•抵当権抹消や名義変更など、不動産登記関連の手続きを扱うのが司法書士です。ローン残債がある状態での売却や、住み替えローンとの組み合わせなどでは、煩雑な登記作業が伴うため、専門家の協力がほぼ必須といえるでしょう。
•境界や持分の問題がある場合も、登記上の権利関係を整理してもらうことで、買主の安心材料となり、スムーズな決済につながりやすくなります。
4. 測量士や建築士
•測量士は、境界確定や敷地面積の正確な算出を行うスペシャリスト。先述したように、境界が曖昧なケースでは、測量士の力が絶大です。
•建築士やホームインスペクターは、建物の状態を診断し、瑕疵や劣化の度合いをレポートにまとめてくれます。売主が「問題ない」と思っている部分でも、専門家が点検することで隠れた欠陥を早期発見できるため、後の紛争を未然に防ぎやすくなります。
5. ファイナンシャルプランナー(FP)

•住み替えやローン、家計管理など、お金にまつわる総合的なアドバイスを提供してくれるのがファイナンシャルプランナーです。
•不動産だけでなく、相続税や譲渡所得税のシミュレーション、家族の将来的なライフプランなどを俯瞰しながら、最適な売却時期やローンの組み方を提案してくれることもあります。これは、資金計画に余裕を持たせ、トラブルを減らすうえで非常に有用です。
費用を惜しまない姿勢がトラブルを防ぐ
こうした専門家に依頼すると、当然ながら報酬や手数料が発生します。
しかし、大きなトラブルが起きてしまえば、弁護士費用や売却の遅延による損失、あるいは補償費用など、さらに高額なコストを負担しなければならないリスクが生じます。
大切な資産である不動産を売却する以上、必要なところには投資を惜しまない姿勢が、結果的には最も安全で賢明な選択です。
総合的な安心を得るために

事前調査と契約条項の明記、そして専門家への相談という2つの柱は、不動産売却の安全性と信頼性を高め、トラブルを未然に防ぐための基本的かつ効果的な手段です。これらを組み合わせれば、
•境界不明確による紛争
•隠れた瑕疵の発見遅れ
•引渡しスケジュールの不一致
など、代表的なリスクを大きく回避しやすくなります。
さらに、買主にとっても安心感を持てる取引となるため、スムーズな交渉や良好な契約関係につながりやすく、売却活動自体も成功しやすくなる効果が期待できます。
不動産売却は一度トラブルが起きると、大きな時間と費用を割かねばならず、取引が頓挫する危険性まで含んでいます。しかし、逆に言えば、今回紹介した対策をしっかり講じておけば、それらのリスクは着実に減らすことができます。
以下に挙げたポイントをおさらいして、万全の準備のもとで、不動産売却を成功させましょう。
•境界確認・測量
•建物や設備の点検(隠れた瑕疵の把握)
•引渡しスケジュールの余裕ある設定
•契約書への詳細な記載
•専門家(不動産会社、弁護士、司法書士、建築士、FP)の連携
これらを実践することが、リスクを最小限に抑え、売主・買主双方が納得できる良好な取引を実現するカギになります。自分で対処できる部分を確実に押さえつつ、難しい局面や専門知識が必要な場面では迷わず専門家の力を借りるというスタンスを持ちましょう。
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まとめ

不動産売却にまつわるトラブルを避けるには、まず境界が明確かどうか、建物や設備に隠れた瑕疵はないか、そして引渡し時期に余裕を持たせられるかを注意深く確認する必要があります。
境界があいまいなまま取引を進めれば、後から隣地との紛争が起こるリスクが高まり、売主が知らなかった不具合が発覚すれば買主から補償や修繕費を求められる恐れもあります。また、引渡し日が契約どおりにいかないと、買主側の引越しスケジュールに悪影響を与え、信用問題に発展しかねません。
こうしたトラブルを回避するためには、売却前の調査や買主への正確な告知が欠かせません。敷地境界や建物状態を把握しておき、問題がある場合は早めに対応策を検討しましょう。
あわせて、契約書には具体的な条項を明記し、万一の紛争時に備えることが重要です。さらに、不動産会社や弁護士、司法書士などの専門家と連携すれば、法的側面や技術的側面でのサポートを受けられ、スムーズな取引が期待できます。
不動産売却は人生の大きなイベントであり、少しの手間やコストを惜しまずに情報収集と準備をしっかり行うことで、大きなリスクを減らし、安全かつ円満な取引を実現できるはずです。
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