農地の売却は難しい?不要な農地を保有し続けるリスクと売却方法
農地売却が難しい理由は、農地法と都市計画法による制限があるためです。また、農地の売却には農業委員会の許可が必要で、売買対象が農家や農業従事者に限られるため、自由に売却できません。
さらに、農業従事者の減少により買い手が少なくなっている点も課題です。不要な農地を放置すると、維持費や害虫・害獣の発生、不法投棄などの問題が発生するリスクがあります。農地売却は「そのまま売却」か「転用して売却」の方法がありますが、それぞれ手続きや条件が異なり、注意が必要です。
目次
農地売却が難しいといわれる主な理由
不動産売却の中でも、農地売却を検討している人もいるでしょう。大田区や品川区のように売却しやすい地域でも、農地となるとハードルが上がってしまうようです。こちらでは農地売却が難しい理由をご紹介します。
◇法律による制限がある
農地の売却に関係する法律は、次のふたつです。
・農地法
農地の売却が難しい理由のひとつは、農地法に基づく売買の制限です。農地は農業委員会の許可を得た農家や農業従事者にのみ売却でき、一般の宅地と同じように自由に売買することはできません。農地の売買が自由化されると、食料供給のための土地が減少する恐れがあるため、制限が設けられています。
・都市計画法
都市計画法とは、都市計画に関する必要事項を定めた法律です。こちらでは、市街化区域と市街化調整区域について簡単に解説します。
市街化区域は、既に市街地を形成しているか、今後10年以内に計画的に市街化を進めるべき地域です。市街化区域内の農地を売却する場合は、市町村の農業委員会への届出が義務付けられています。
対して、市街化調整区域は、市街化を抑制すべき地域とされており、農地を売却・転用する際には、農業委員会や都道府県知事の許可が必要です。
届出と許可の違いは大きく、届出は原則として受理されますが、許可は審査を経て下りるもので、許可を得るには大きなハードルがあります。このため、市街化調整区域での農地売却はより難易度が高くなります。
◇購入希望者が減っている
近年は農業従事者の高齢化と新規就農者の減少により、農地を引退後に売却したい農家が多くいます。しかし、その一方で、買手となる農家や農業従事者が見つからず、売却が難しくなっています。このため、農地の売却は非常に困難なのです。
不要な農地を所有し続けると不法投棄される可能性も
農地の売却が難しいため、農地をそのままにする人もいるでしょう。しかし、保有し続けることで発生するデメリットも少なくありません。こちらでは、不要な農地を売却せず保有し続けることによるデメリットを解説します。
◇維持費がかかる
農地を保有するには、維持費がかかります。主な費用項目は、固定資産税、水利費、地域の賦課金、共済の掛け金、川の清掃や草刈りの費用などです。さらには、獣害対策に関連する費用が発生することもあります。
◇害虫や害獣が繁殖する
農地を相続しても適切に管理されないまま放置されると生じるのが、害虫や害獣の発生といった問題です。管理が行き届かない農地では雑草が繁茂し、その中に害虫が集まりやすくなります。害虫が増殖すると、住居に侵入したり、近隣の庭や公共の場で被害を及ぼしたりすることがあります。
大量発生すると、健康被害の原因となることもあり、周囲の住環境に深刻な影響を与える恐れがあるため注意が必要です。また、放置された農地は害獣の隠れ家や繁殖地として利用され、ネズミやイタチ、ハクビシンなどが住み着くことも。これらの害獣は建物や庭を荒らし、感染症のリスクを高める可能性があり、近隣住民から苦情が寄せられることも考えられます。
◇不法投棄されるリスクがある
「一時的に資材置き場として貸してほしい」「耕作しやすいように農地に土を入れてあげる」「使っていない土地を有効活用しましょう」などの提案に同意し、農地に廃棄物や違法に残土を積まれるとトラブルが発生しています。
土地所有者は、「だまされて被害者になった」と感じることもありますが、責任や処理費用は、話を持ちかけた人だけでなく、同意した土地所有者にも及ぶことがあります。
農地の売却方法とそれぞれの流れ
農地を所有し続けることは、デメリットやリスクがあるため、使っていない農地は売却することが推奨されます。農地の売却方法や流れを確認していきましょう。
◇農地のまま売却する
農地をそのまま売却する場合、転用手続きを省けるため手間が少なくなりますが、農家や農地所有適格法人などの買い手を見つける必要があります。具体的な方法としては、農協や農業委員会に問い合わせる、近隣農家に売却を提案する、農地専門の不動産会社に仲介を依頼するなどです。
農地のまま売却する場合も、事前に農地の区分を調べておくことが推奨されます。その理由は、農用地区域内の農地であれば、農業委員会に買い手をあっせんしてもらえ、譲渡所得から800万円の特別控除を受けられるためです。
農地のまま売却する流れとしては、まず、農地の購入希望者を探します。買い手が見つかれば、売買契約を締結します。許可が下りなければ契約は無効となるため、農業委員会の許可が下りなければ契約が無効になることを了承の上で、契約を結ぶことがポイントです。
契約締結した後は、必要書類を準備して農業委員会で許可の申請です。必要書類は登記事項証明書、位置図、公図の写しなどで、自治体によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
農業委員会から許可が下りると許可証が交付されます。許可証が交付された後、農地を買い手に引き渡し、売買代金を受け取ります。所有権移転登記を行い、取引は完了です。
◇農地を転用して売却する
農地を転用して売却する際は、農家以外の買い手も対象にできるため、売却をスムーズに進めることが可能です。ただし、農地転用には申請手続きが必要なため、専門知識のある不動産会社に依頼することをおすすめします。
まず、自分の農地がどの区分に属するかを調べます。農業委員会事務局や市町村の農政課、農林課に問い合わせると確認できます。また、売却先についても相談すると良いでしょう。
農地転用が可能であると確認できたら、知人や不動産会社を通じて買い手を探します。買い手が見つかった場合、転用して売却する場合も「農業委員会の許可が得られない場合は契約解除となる」という条件を前提に売買契約を結びます。
売買契約後、農業委員会に農地転用許可の申請を行います。この際、必要書類(登記事項証明書、位置図、公図など)は自治体によって異なるため、事前に確認してください。
許可証が交付されたら、農地を買い手に引き渡します。その後、売買代金を受け取り、所有権移転登記を行えば取引完了となります。
農地を転用してから売却する際の注意点
農地をそのまま売却する方法と転用して売却する方法では、転用した方が売却しやすいのが通常です。しかし、転用に際して注意点もいくつかあります。詳しくみていきましょう。
◇転用できない場合もある
転用ができる農地と転用ができない農地の特徴は、以下のとおりです。
・転用できない農地
農地転用が難しい農地は、「農用地区内農地」「甲種農地」「第1種農地」の3つです。
農用地区内農地:これは各市町村が策定する「農業振興地域整備計画」に基づき、生産性が特に高いと認められた農地で、原則として転用は認められません。転用を希望する場合は、農用地区からの除外申請が必要ですが、条件が厳しく、実現が難しいのが現状といえます。
甲種農地:市街地形成を目的に土地改良事業が8年以内に行われた農地です。甲種農地も、農用地区内農地と同様に転用が非常に難しいとされています。ただし、転用後の用途によっては、農地転用が認められる場合もあります。
第1種農地:10ha以上の広大な農地で、土地改良事業の対象となった土地を指し、こちらも原則として転用は困難です。しかし、甲種農地同様に、目的次第では例外的に許可される場合があります。
・転用できる農地
農地転用が可能な土地は「第2種農地」と「第3種農地」です。
第2種農地:市街地近郊や未整備で生産性が低い農地を指します。転用するためには、「代替性」の条件を満たすことが必要です。つまり、その土地以外でも転用が可能と判断される場合、許可は下りません。そのため、転用するのは、その土地でなければならない具体的な理由を提示する必要があります。
第3種農地:市街化区域や駅、公共施設から300m以内の農地が対象です。代替性の審査がないため、比較的容易に転用の許可が降ります。
また、どちらの場合でも、農地転用には以下の一般条件を満たすことが求められます。
1.確実に転用が行われること
2.周辺農地に悪影響を与えないこと
3.一時転用後に農地へ復元することが確認されていること
◇転用には許可が必要
農地転用の許可権者は都道府県知事で、許可申請の提出先は該当する農地が所在する市町村の農業委員会です。例えば埼玉県越谷市では、許可申請の受付締切日は原則として毎月10日と定められています。ただし、10日が土日祝日にあたる場合は、その直前の市役所開庁日が締切日です。
申請には「農地法第4条許可申請書(土地所有者が自身の農地を農地以外の用途に利用する場合)」または「農地法第5条許可申請書(農地の権利移転や設定を伴い、その農地を農地以外の用途に利用する場合)」を提出する必要があります。
申請時には、申請者本人が本人確認書類を持参して来庁することが必要です。申請者本人が来庁できない場合には、委任状と本人確認書類の写し2点を提出れば、代理人による手続きが可能です。
農地売却が難しい理由は、主に農地法と都市計画法による制限があります。農地法では、農地は農業従事者や農家にしか売れず、自由に売買できません。都市計画法では、市街化区域と市街化調整区域において農地売却に異なる手続きが必要で、特に市街化調整区域での売却は許可を得るのが困難です。
さらに、農業従事者の高齢化や新規就農者の減少により、買い手が少なく、売却が困難になっています。
農地を放置すると、維持費や害虫・害獣の発生、不法投棄のリスクが増加します。これらの問題を避けるため、農地を売却する選択肢がありますが、「そのまま売却」か「転用して売却」の方法にはそれぞれ異なる手続きが必要です。
農地をそのまま売却する場合、農業委員会の許可を得る必要があり、買い手を見つける方法として農協や不動産会社を利用することが推奨されます。一方、農地を転用して売却する場合、農業従事者以外にも売却できるため、スムーズに進められますが、転用許可の手続きが必要で、特に転用が難しい農地も存在します。
転用ができる農地には第2種農地や第3種農地があり、転用には都道府県知事の許可が必要です。転用後は、周囲に悪影響を与えないことや、農地として復元することが求められます。
農地売却を検討する際は、これらの法的な制限と手続きを十分に理解し、専門家のアドバイスを受けることが重要です。